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第1期特集

SiGnalが行く冬の青春18きっぷ

(第5回)

関東一周初乗り旅(その2)

東海林庄司

※SiGnal刊『「青春18きっぷ」の旅 傑作選』の「おまけ」ページでは「Bさん」で紹介されています。

 4 佐野ラーメン異聞

 佐野駅で今日はじめての下車。不惑を迎えた記念(?)に佐野厄除大師を訪ねるのが、今日の一つの目的といえなくもない。

 駅から厄除大師まではけっこう距離があり、妙に人けの少ない町を15分以上歩いてようやく境内前の道路に出た。山門の周囲だけは別の町のようににぎわいがあり、観光バスも出入りしている。

 一般のお参りはこちら、厄除けはこちらと、テープで「順路」を仕切ってあるあたり、参拝客の多さがうかがえる。

 イワシの頭ほどの信心もないぼくは、厄除けコースなどは最初から眼中になく、かたちだけのお参りを済ませ、いちばん安いお守りを1つだけ買って、そそくさと境内をあとにする。

 だんだんおなかも空いてきたことだし、そろそろラーメン・タイムか。佐野下車が昼をかなり過ぎるのを見越して、途中で駅そばを食べておいたので、麺類がダブるのはさみしいが、ほとんど佐野しか下車しない旅でラーメンを食べない手はない。

 往きに目に留めていた店から適当に1軒を選び、のれんをくぐると、昼をとうに過ぎ、夕方にはまだ早い時間だけに客は1人もいない。応対は悪くないが、準備がないぶん少し待たされる。奥のテレビを見るともなく眺めながら、しばらくぼーっと待つ。やっと出てきたラーメンをひと口すすって、

「……」

 なんかこれ、味がないよ。ま、いーんだけど、これが佐野ラーメンの味なのかなあ。店によって違いとかもあるのかな。「名物にうまいものなし」とかいう言葉もあることだし、そんなに期待してたわけじゃないけどね。駅そばを食べたのはけっこう前だからそれなりに空腹だし、とにかく食べちゃおう。


 5 冬の落日

 店を出ると、はや夕方の気配。さすがに日が短い。急に時間が気になり、駅へ急いだ。真新しい橋上駅が左手から強い西日を受けている。えーと小山行きは……16時17分か。

 ん、ちょっと待て。この時間て、けっこう遅くないか。小山行きに乗り込んでからあらためて調べてみると、はたして、第2目的地の笠間着は17時46分。

 笠間で「やきもの通り」をひやかして、笠間焼の湯呑みでもみやげに買うつもりだったけど、ガイドブックの店は遅いところでも18時まで。ちょっと間に合いそうもない。どうしよう。

 小山で水戸線に乗り換えると、結城あたりでもう日暮れ。帰宅時間の客に囲まれながら、笠間の店をもう一度調べ直す。やはり遅くても18時。大半の店は17時まで。となれば、さしもの「やきもの通り」も、閉店時刻が過ぎたあとの田舎の商店街みたいになっているのではなかろうか。

 定刻に笠間着。素通りするに忍びず、いちおう降りてみる。駅前はすっかり夜だが、なにやらのモニュメントが目立つ。たぶん笠間焼の関係と思うが定かでない。

 いちおう「やきもの通り」へ向かう方向をのぞいてみるが、ただ真っ暗な一本道で、先に何も見えない。

「……だけど、せっかくだもんね」


 6 笠間の湯飲み

 暗い夜道を早足で歩く。あとの時間を考えると、もうあまり余裕はない。ほかに歩く人はなく、たまに車が追い越していくだけ。観光町という雰囲気はまったく感じられない。引き返そうか迷いながらそれでも15分は歩いたか、ようやく大通りにぶつかるT字路に出た。ここから右が「やきもの通り」のはずだが……。そこにあるのはまったく「夜の地方都市の主要道」という風景ばかりで、激しい勢いで車が行き交っている。よく見ると道沿いに陶磁器店らしきものは1、2軒あるが、どれも真っ暗で、とっくに閉店か、どちらといえばとっくに廃業したようなさびしさだ。

 それでもよく目をこらすと、それらしい店に明かりがともっているのが、だいぶ遠くに1軒だけある。あれがダメなら……と心を決めて歩いていくと、明かりはついているものの、店は閉めたあとだった。ガックリ。

 と、肩を落としかけたところで、店内に人がいるのに気づく。おじいさんだ。目が合った。

「どうぞ」

 愛想のよいご主人で、すぐに戸を開けてくれた。

「いいんですか?」

「どうぞどうぞ」

 もっけの幸いとばかり、超スピードで土産を選ぶ。お皿と箸置きと……。包んでもらっているあいだに、ご主人とちょっぴりコミュニケーション。

「閉店時間からそう遅くはないのに、どこも真っ暗で」

「もうね、近頃はみんな早く閉めちゃうから。とくに平日は」

 屈指の陶郷も、なんだか思ったほどの活気はないようだ。どこも不況か……。しかし、そう考えると逆にこの店はよくこの時間まで明かりを落とさないでいたし、なかば閉店したものをたった1人のためにわざわざ開けてくれた。ご主人、エラい!

「どーもでした」

「毎度あり。おまけに湯飲みも付けといたから」

 ラッキー!

 気前のよいご主人のおかげで、旅の締めくくりがとても気持ちのよいものになったことはいうまでもない。

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