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第1期特集

SiGnalが行く冬の青春18きっぷ

(第4回)

関東一周初乗り旅(前編)

東海林庄司

※SiGnal刊『「青春18きっぷ」の旅 傑作選』の「おまけ」ページでは「Bさん」で紹介されています。

 1 旅の朝

「青春18きっぷ」1枚を5人で1日ずつ使い、それぞれに日帰り旅のルポを書くという話が決まったとき、ちょっと大変だけど面白い、とぼくは思ったのだが、同時に、鉄道にいちばん縁のない自分が不利だな、と思ったことも事実。旅のアイデアの面でも、実行力の面でも、ほかの4人にはかなうまい。

 時刻表の地図ページを広げ、ああでもないこうでもないと呻吟しているうちに、ふと気づいた。凝ったマネをしても仕方ない。ぼくはいわば「鉄道素人」なのだから、素人には素人なりの旅があり、旅の楽しみ方がある……と。

 肩の力が抜けると、自然にプランが頭に浮かぶ。考えてみれば、長年関東に住んでいるにもかかわらず、関東一円ほとんど乗ったことのない路線ばかり。それなら逆に、初乗り路線ばかり選んで関東一周、でいいじゃないか。

 八高線、両毛線、水戸線、常磐線、成田線、総武本線とつなげば、オール初とはさすがにいかないが、多いほうでも八高線が2〜3回、総武本線(山手線内はともかく)が1〜2回、両毛・水戸線は掛け値なしに初、常磐線の一部も初、と鉄道ファンが愕然としそうな未乗ぶり。

 とりあえずプランは決まって、翌日は日帰り旅の当日。9時すぎに玄関を一歩出ると、冬らしくよく晴れて風は冷たい。思わずつぶやいた。

「寒いなあ……」

 気持ちはいいけど真冬の寒風はやっぱし厳しい。ま、冬なんだからしょうがない。とりあえず雨とかじゃなくて晴れたんだし、この旅は幸先がいい、ってことで。

 最初の駅は武蔵野線の北朝霞。オレンジの電車に乗り込んでみると、けっこう客がいる。平日の通勤時間帯だし、まあ当然か。いまもそうだし夕方も混んでくるから、そのつもりで乗ってないと……。やたら車内で弁当とか広げられないな。


2 蹴りたい電車

 西国分寺で中央線に乗り換え。立川で青梅線に乗り換えようかとしばらく迷う。青梅線は未乗だが、乗れば八高線の八王子−拝島間はパスすることになる。その区間もやっぱり未乗だし、どっちをとるか。

 と迷ってるうちに立川駅はすぐに発車となってしまい、そこへ車内放送が「次は、西立川ぁー、西立川ぁー」。ちょっと待って、中央線に西立川駅なんてあったっけ。頭上の路線図を確認してはじめて、青梅線直通に乗ったことに気づいた。

 鉄道ファンが一緒だったら笑われちゃうな、と、キョロキョロした自分がちょっと恥ずかしくなる。ぼくの生活圏からさして離れてるわけじゃないのに、早くもこれかぁ。

 結局、八王子−拝島間は迷った甲斐もなくパスとなる。いつか乗ることがあるだろうか……。

 拝島駅には、いかにもローカル線っぽい八高線の小ぶりな列車がすでにホームに入って待っていた。立川からわずか5駅目、しかも東京都内なのに、「通勤圏」と「ローカル圏」の差は歴然としている。駅まわりやホームの様子がどこか違う。不思議なものだ。

 この列車が「高麗川行き」と表示されているので不吉な予感はしたが、悪い予感はよく当たるもので、時刻表をあらためて見てみると、八高線はどれも八王子から高麗川まで来たところで川越線に乗り入れてしまい、高崎方面へ行くには高麗川で乗り換えないといけない。高麗川での連絡も悪く、11時5分から43分まで約40分、ここで待たされることになった。

 これぞ鉄道素人の悲しさ。というか、あまり下調べもせずにきた自分が悪いのか……。駅前には降りてみたくなるような雰囲気もなく、高麗川駅のホームでひたすら待っているしかなかった。

 ようやくやって来た列車に乗り込んでみると、座席は右1列左2列のボックス式、窓は大きなはめこみ式で、特急を小型にしたような変わった車両。暖房が効いてあったかいのはよかったが、太陽がさんさんと降り注ぐなか、窓を開けられない車内はだんだん暑くなる。前夜の寝不足も手伝って頭がぼーっとなり、いつのまにかついウトウトしたらしい。


3 赤城山麓冬景色

 次は、倉賀野ぉー……というアナウンスで目が覚めた。駅名に聞き覚えがあるのは馴染みの高崎線に違いない。時刻表を見るとはたしてそのとおり、八高線は高崎へ近づくと高崎線に合流している。

 高崎は大きなターミナル駅であまり旅情はなく、何度か訪れているので新鮮味もない。しかし5番線にはすでに両毛線の列車が停まっており、乗り込むとそれなりに旅らしくなってきた。ここから先、両毛線と水戸線は掛け値なしに未乗だ。

 ところが、ふと「初めて」という点が引っかかり、何か初心者の知らないことがあるのではと念のため時刻表を調べてみると、予感的中。昼間の両毛線はほぼ1本おきに「伊勢崎止まり」で、この13時14分発もそれ。次の13時40分発でないと最初の目的地、佐野へ行けない。

 まったく、困ったもんだ。八高線といい両毛線といい、こうたびたび途中で切れてたんじゃいつまでたっても佐野に着かない。伊勢崎に用はないんだけどなあ。

 仕方ないので14分発に乗ったけれど、中途半端に混んでるし、昼なのに背広姿が妙に多いし、なんだか通勤電車みたいで面白くもおかしくもない。新前橋で少しは空くかと思えば、たしかに出入りは多かったけど発車してみればかえって前より混んでいる。だいたい、座席が対面式だと旅ってカンジじゃないんだな。

 とブツブツ考えていると、なんだか大きい川を渡ったな、と思った次の瞬間、迫力ある山の景色が目の前にどかーんと広がってビックリ。

「うおー、スゲーっ!」

 いきなり気分一新。旅の醍醐味を味わわせてくれたこの山は、きっと赤城山に違いない。「赤城の山も今宵かぎりか……」の、あの赤城山。

 たしかに、前橋の北に赤城山があることは知っていた。車で行ったこともあるし、山道を山頂まで登ったこともある。だけど、観光列車でもなんでもない両毛線の普通列車から、こんなふうに雄大な景色が見られるなんて、思ってもみないことだった。

 しかも座席が対面式だから、向こう側の窓がまるっきり「超パノラマスクリーン」状態で、もおごっつぁんです。だから対面式ってスキ。よっニクイよ、この対面式!

 前橋を過ぎると車内の人も減って、窓の外の「大パノラマ」がもうバッチリ。周囲の人にとっては「いつもの風景」ということのようで、格別声など上げるでもなく、なにげない感じなのがいっそうさわやかなんだなあ。

 ああもう、この感激、誰かに分けてあげたい、いまの自分をホメてあげたい、こんな赤城山だったら目の中に入れても痛くない……。

 と、すっかり舞い上がっていたのだが、残念ながらそのうちに雲が出てきてしまい、伊勢崎で次の列車に乗り換えたころには、赤城山はすっかり雲中に隠れてしまった。

(後編は8月9日掲載予定)


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