SiGnal
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第1期特集

SiGnalが行く冬の青春18きっぷ

(第3回)

青春18きっぷの旅  SiGnal5人衆 五者五様

中部・盲腸線めぐり

鶴岡祐紀

※SiGnal刊『「青春18きっぷ」の旅 傑作選』の「おまけ」ページでは「Cさん」で紹介されています。

 1月12日、23時40分、僕は困り果てていた。困っていたのではなく「困り果てていた」。右後方から聞こえてくる規則正しくない雑音、これに悩まされている。

 ここは東京駅10番線にて発車を待っている快速〈ムーンライトながら〉4号車車内。僕の座席は11B。23時35分ごろに入線してからまだ5分しかなっていない。なのに、なのにもうオヤジのいびきが響いてくる。いびき自体にはT先生に何度も同行し座席夜行や民宿で“被害”にあっているので問題ないのだが……不規則で気になってしょうがない。

 大垣夜行という愛称で親しまれた列車が〈ながら〉になってからは東京駅(あるいは品川駅)で並ぶ必要がなくなり、指定券さえ入手できれば便利なのだが、なんだか寂しい。東京駅出発時は全車指定なので、指定券を取ることができなければ、先行する普通列車で小田原まで行き、小田原から自由席になる車両に乗車しなければならず、ややこしい。

 車内放送では、「本日は満席です。指定席券をお持ちでない方は……」と上記の案内を繰り返す。43分の東京発車時点では座席は半分ほどしか埋まらず、残りのほとんどは横浜からの乗客なのだろう。

 隣のA席には中年の女性が座り、ハードカバーの小説を読み始めている。自分もそれに習って、文庫本を取りだし、オヤジのいびきを忘れることにする。

 本を読み始めると、車掌が車内改札に訪れ、「青春18きっぷ」、〈ながら〉指定券、横浜までのきっぷを見せる。「横浜までのきっぷ」は、「青春18きっぷ」を東京発車の翌日(僕の場合は13日)に使うために買う必要がある。横浜で日付が変わる〈ながら〉乗車の際は、横浜まで切符を購入しておけば、翌日から「青春18きっぷ」を使い始めることができる。もちろん、横浜以降、大船、平塚、国府津など、すでに日付が変わってから乗車する場合は、切符を購入する必要はない。

 まわりの乗客の様子を見ていると、横浜までの乗車券を持っている人が多く、「青春18きっぷ」の使用方法はかなり浸透している模様。だが、いびきのオヤジさんは、500円ほどの料金を払っていた。車掌に「お休みのところすいませんが……」と起こされて、必然的にいびきも中断し、やれやれ。

 しばらく、アフリカ暮らしを綴った本を読むことに没頭していたが、車掌のお休み放送が聞こえてきた。小田原を発車した頃だっただろうか。放送の最後に「明朝の放送は豊橋から開始するので途中駅で降りる方はご注意を」と付け加えた。

 にもかかわらず、静岡発車後、けたたましい車内放送が流れた。浜松と豊橋で、それぞれ30分ほど停車すること、その先の停車駅案内のほか、「ただいま、JR東海ではマナーアップ運動を行なっています。お年寄り、体の不自由な方にはお席をお譲りください」とのことを長々と。そして、この車掌、地声が大きく迷惑。深夜2時半過ぎに、車内放送が必要なのか? さらに、東京駅を全車指定席で発車した列車の乗客に、お年寄りには席を譲りましょうと呼びかけることがおかしいと思うのだが。

〈ながら〉は東京〜熱海間をJR東日本、熱海以降はJR東海の営業区域を走り、それに伴って乗務員も交代する。JR東日本の車掌は明朝の放送を「豊橋から」と案内。しかし、引き継いだJR東海の車掌は静岡発車の時点で車内放送。

 この放送で完全に起こされた乗客は、「なんで30分も止まるんだろう」と言いながら、ホームに出て自販機へと向かった。

 豊橋以降、各駅に止まってゆくのだが、停車するごとに駅名を連呼するので、うるさくてかなわない。三河三谷停車のアナウンスを聞いたあと、気がついたら名古屋を発車したところだった。ようやく1時間ばかり眠ったようだ。

 ところで、〈ながら〉はなぜ大垣ゆきなのだろう。その謎は、大垣駅前に出ると解けた。駅前に止まっていた名阪近鉄バスのボディに「奥の細道、むすびの地」と書いてあったのだ。う〜ん、そうだったのか。JRも松尾芭蕉に敬意を表しているということにしておこう。

〈ながら〉で大垣まできた人は、乗り換えてさらに東海道本線を西に進む人がほとんどだが、僕も同じ東海道本線に乗る。ただ、行き先は美濃赤坂。大垣から5.0キロ、途中駅ひとつ、所要6分の支線だが、東海道本線という名前をもらっている。貨物駅の構内に入っていくように美濃赤坂駅到着。高校生やサラリーマンがホームで折返しの列車を待っている。駅へは自家用車で送り迎えしてもらっているようだ。

 駅前をひとまわりしてきても、まだ、電車が停まっていたので、走って乗り込む。2両編成で立ち客も。みな、名古屋方面への通勤・通学客だ。大垣駅では近鉄線との乗り換え口を走って抜けてくる人たちの多いこと。ホームまで走ってくれば、新快速電車で座って名古屋まで30分ほど。東京の通勤地獄とは差がある。

 僕はふたたびJRの改札を抜け、近鉄線改札口へ。当初の計画では近鉄養老線で揖斐へ行こうと思っていたのだが、美濃赤坂ですぐ折返してきたので揖斐ゆきにはまだ、時間がある。ならば、計画変更、反対方面の桑名ゆきに乗る事にした。思うところあって、近鉄四日市まで900円の切符を購入。ホームへ進むと、ちょうど到着した列車からの高校生の波に巻き込まれつつ、なんとか赤とクリーム色の電車に乗り込む。

 8時少し前のこの時間帯、列車内も高校生ばかり、学区の境か、それとも、時刻の関係か美濃高田駅までに全員下車。中年の女性2、3人しか乗っていない。養老で長時間停車のあと、駒野から名古屋へのお客もあり、にぎやかになってくる。養老線はワンマン運転だが、車掌も乗り込み切符を発行してまわる。

 桑名駅で乗り換え。特急賢島ゆきを見送り、普通列車で四日市へ。四日市では一度改札を出て、内部線・八王子線の発着ホームへ。この路線は軌間が762ミリなのである。大垣からの養老線は1067ミリ、桑名〜四日市間乗車した名古屋線は1435ミリで新幹線と同じ軌間と、近鉄の3種類の軌間を乗り継いだことになる。

 小さな列車に乗り込むと、そこそこのお客。途中駅から乗ってくる人もあり、バスに似た車内同様、バス感覚で利用されているようだ。八王子線が分岐する日永を経て15分ほどで終点内部到着。駅前の道路は幅が狭い割に車が多いなと思ったら「旧東海道」との看板。向かい側に見えた、四日市小古曽郵便局にて2004年最初の旅行貯金、そしてこの局が三重県最初の局となり、これにて47都道府県にて旅行貯金達成! 高校合格後から始めて約10年、1231局目のことだった。

 とりたてて感慨もなく、内部駅から電車で赤堀駅まで戻る。赤堀は四日市の一つ手前の駅で、近くに郵便局が見えた。ここで貯金をしたあと、JR四日市駅から「青春18きっぷ」の旅を再開しようというわけだ。

 東海道を走る車に気をつけながら局に行き、JRの駅を目指し、東へ向かって歩いていくと、喫茶店の看板に「あなごサンド 800円」と書いてあるのを発見。試してみたさもあったが、今日の昼食はすでに決めていたので、素通り。

 四日市市は津市と並んで三重県内で商業の中心とイメージしていたのだけれど、JR駅周辺は証券会社の建物がいくつか建っているだけで、非常に寂しい。近鉄側のにぎやかさとは比べ物にならない。九州のJR久留米駅と西鉄久留米のような位置関係だが、JR四日市駅はとても商工業都市の駅とは思えない。

 これから名古屋市内に入ってゆくのだが、関西本線で名古屋駅直行では面白くない。JTB時刻表の名古屋地下鉄路線図を眺め、地下鉄と接続する八田駅下車とする。

 近鉄線と完全に並行して走っているJR線にもそれなりの乗客があり、桑名での特急待ち合わせ時にも乗客が増えた。「名古屋までお急ぎの方は310円の特急料金が必要です」と繰り返しアナウンスしていたのは近鉄特急への対応策なのだろうが、見たところ、特急〈(ワイドビュー)南紀〉に乗り込んだ人はいなかった。

 八田下車客は、僕を含めて2名。名古屋市営地下鉄東山線の接続駅ではあるが、名古屋までならJRに乗り続ければいいのだから当然か? その東山線の末端、高畑駅まで歩く。なぜにここで終点なのだろうかとの思いを抱きながら、名古屋荒子郵便局で貯金をし、東山線へ。伏見まで乗る。これで、東山線完乗。記念に伏見駅の駅名標を写真に写す。隣の駅「大須観音」と、先ほど通過してきた「JR富田」を合わせると、大須賀編集長をはじめ、SiGnal役員の4人の名前が集まる。僕、鶴岡の駅名は北海道の「渡島鶴岡」と山形県の古都・鶴岡市しかないので、ここでは鶴舞で代用すると5人全員集合だ。まあ、くだらないと言えばくだらないが。

 名古屋駅へ歩いて戻り、駅内の新名所、「驛麺通り」へ。ここは全国各地のラーメン屋を集めている一角で、地元っ子に人気と聞いてきた。13時を過ぎても、まだ行列があったが、通りの一番奥、「尾道らーめん さいごく路」のカウンターに落ち着く。鶏がらスープの麺を味わい、満足して店を出ると改札はすぐそば。

 14時18分の普通電車で多治見まで進み、〈セントラルライナー〉に乗り換え。中津川駅ホームにかなりの人影があると思ったら、新聞受け取りの人たちだった。関西本線でも運び出す光景を目にしたことがあり、中部地区では列車が新聞輸送に一役買っている。

  駅前の郵便局に行っている間に雪のちらついてきた中津川からは特急〈(ワイドビュー)しなの17号〉に乗って中央西線を東へ。「青春18きっぷ」では乗れないので、もちろん乗車券・特急券を購入するが、一部区間利用するだけで自宅にたどり着く時間にかなりの差が出るのだ。

 列車が南木曽を出るころには一面真っ白。さらに、猛吹雪状態に見える。特急は木曽福島までの予定だったのだが、これでは無事に帰れるかわからない。塩尻までの変更を車掌にたのむ。特急は快調に飛ばしたのだが……塩尻駅についたとたん、このアナウンス。

「ただいま、普通列車に遅れが出ております。特急電車を先に通します」

 この先、どうなるのだろうかと不安になったが、眼前に映る塩尻駅前はますます白くなってゆくのであった。

(完)


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